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2016年1月3日日曜日

毎日新聞 男の気持ち



安曇野の思い出 静岡県藤枝市・匿名希望(自営業・45歳)

毎日新聞2015年12月29日 東京朝刊

 11月14日の当欄「伊豆の海」を読み、しみじみ共感を覚えました。 と同時に、あるできごとを思い出しました。10年ほど前の夏休みのことです。 妻、5歳の息子と私で、信州・安曇野のペンションに2泊する旅行に出かけました。 3人でのびやかな田園風景の中を散歩しながら道祖神に手を合わせたり、上高地まで足を延ばして観光したりと、楽しい時間を過ごしました。

 ペンション2日目の夜、さあ寝ようというときに息子がしくしくと泣き出したのです。 「明日もう帰らなくちゃいけないの? もっとお泊まりしたいよ」と。 息子のいじらしさと家族への愛情で胸がいっぱいになりました。息子をぎゅっと抱きしめました。

 その後、いろいろと問題があり、2年前に妻は家を出て行きました。 幼い頃はかわいかった息子も今は中学3年生です。 体は大きくなりましたが、中学2年生の夏休み明けから学校に行けなくなりました。 卒業後の進路について、2人で悩んでいるところです。

 ずっと続くと信じて疑わなかった家族の幸せが、いとも簡単に壊れてしまいました。その後はずっと苦い思い出が続いています。そんな時、時々あの、安曇野の夜を思い出します。 あの時は本当に幸せだったなあと。