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2013年2月15日金曜日

そこにある死


西穂高遭難の夫婦死亡=静岡の病院診療部長ら―岐阜
時事通信 2月12日(火)19時10分配信
 岐阜県高山市の西穂高岳独標(2701メートル)で12日朝に発見された男女について、県警高山署は同日、死亡を確認したと発表した。2人は静岡県立こども病院第2診療部長で静岡市葵区桜木町の堀本洋さん(63)と妻睦さん(58)で、死因は凍死だった。
 同署によると、堀本さん夫妻は10日、日帰りの予定で入山。西穂高岳独標に登頂後、悪天候のため道に迷い、睦さんが尾根から200メートル滑落したという。


静岡の夫婦、死亡確認 北アルプス遭難
@S[アットエス] 2月13日(水)8時0分配信
 岐阜県警は12日、同県高山市の北アルプス・西穂高岳の標高2500メートル付近で、10日から行方が分からなくなっていた静岡市葵区の静岡県立こども病院の男性医師(63)と妻(58)の2人を発見した。2人は高山署で死亡が確認され、死因はいずれも凍死。
 高山署によると、2人は尾根から約200メートル下の斜面で、約50メートル離れて倒れているのが見つかった。体の一部が雪に埋まり、心肺停止の状態だった。
 2人は10日午前、日帰りの予定で入山。下山中に吹雪で視界不良となり、妻は登山道を外れ、足を滑らせて滑落したという。
 静岡県立こども病院によると、男性は同病院の第2診療部長と麻酔科医長を兼務し、日本小児麻酔学会の理事長も務めていた。
静岡新聞社


▲:奥さんが滑落して、夫であるこの医師は(恐らくかなりの山の経験があるとして・こんな時期にあの場所に行くのは年季を積んでいなければムリ)、一人では助けられないかもしれない、と頭の隅で理解していたはずである。
 2人の遺体が50メートルも離れていたことを考えると、雪が深くて、夫は妻にそれ以上近づくこともできなかったのだろう。雪が飛ばされている尾根を歩くことは難しくはない。しかし、新雪が何メートルと積っている谷すじを進むのは、よほどの体力と装備がなければ無理。
 雪の谷底に滑落した場合は、2次遭難を恐れて一緒に登山していた仲間ですら「諦める」ことがあるのを私は知っている。
 2次遭難、自分も助からないかもしれないことを、この医師は、もちろん、頭の隅ではなく、頭の中心で理解していたことだろう。
 しかし、妻を見捨ててゆけるだろうか?
 たとえ90パーセント、あるいは99パーセント、一緒に助からない・一緒に凍死することになると解っていても、この医師は妻のもとへと雪に埋もれて助けに向かったのだろう。

 あるいは……。一人だけで山荘に戻り、救助を求めるよりも、妻のいる雪の谷すじに降りてゆき、自分もまた死ぬことの方を、彼は自覚しながら・頷きながら選んだのかもしれない。
 不謹慎な言葉かもしれないけれども、妻と一緒に死ぬことのできた・死んでしまったこの医師・夫が、死ぬことを理解していながら妻の落ちていった谷へと、自分も降りていったような気が私にはするのである。

 私は新穂高ロープウェイに初夏に乗ったことがある。終点の展望台から望む景色はすばらしかった。とても冬には行くことはできないけれども、雪に覆われたこの西穂独標とか笠置岳といった周囲の山々は美しかった。この山々の雪景色を眺めて楽しんだあと、この夫婦が一緒に死ぬことができたことに、幸不幸を超えた何かがあるような気がする。
 いや、まわりくどい表現を避けて言ってしまえば、この医師・夫は、幸せだったのだと思う。少なくとも、妻を喪って突き落とされることになる絶望の谷でもがき苦しむことは免れたわけだから。


when you chose the descent on the white slope
coming death posed no threat to your precious hope
that you could leave this world with your long-cherished wife
gratified that her existence gave you the meaning of your life 



奥さんと 共に最後へ 雪の中 his case
奥さんの 名を呼び歩く 雪の中 my case