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2013年8月28日水曜日

いろいろな人生 藤圭子 沢木耕太郎

http://www.cyzo.com/2013/08/post_14335.html
2013.08.27 火
封印された藤圭子の評伝 運命を大きく変えた、大物作家との知られざる悲恋

8月22日、マンションから飛び降り自殺を図った藤圭子。ワイドショーでは連日、関係者が生前の彼女の様子や思い出を語っているが、ぜひ藤について語ってほしい人物がいる。いや、“書いてほしい”と言うべきだろうか。
 その人物とは、『深夜特急』(新潮社)、『テロルの決算』(文藝春秋)などで知られる人気ノンフィクション作家・沢木耕太郎である。最近ではロバート・キャパの代表作を題材にした『キャパの十字架』(同)を出版して話題を呼ぶなど、ノンフィクション界の第一線に立ち続けている大御所だが、実は沢木は、今から34年前の1979年、藤圭子のノンフィクションを書くべく1年間に渡って密着取材を行っていた。そして原稿を書き上げたのだが、なぜかそれは日の目を見ることなく、今も封印されたままなのだ。
 なぜ1年も密着し、書き上げたものが発表されずにいるのか……。誰もが不思議に思うが、その理由は沢木と藤が取材を通して恋愛関係に発展、それがこじれた結果、出せなくなってしまったのだという。
 この2人の経緯を暴露しているのは、伝説のスキャンダル雑誌「噂の眞相」1999年11月号。新宿御苑に程近い雑居ビルの壁際で、カップルのように親しげなムードで内輪もめを起こしている様子を見たというマスコミ関係者のコメントや、藤が突然引退して渡米したのは、沢木とニューヨークで暮らす約束をしていたからだとする関係者からの証言を紹介している。
 実際、当時、藤と非常に親しい間柄だった人物も、その関係を示唆する文章を書いている。それは写真評論家・大竹昭子のエッセイ集『旅ではなぜかよく眠り』(新潮社/95年)に記載された、ある一文だ。「歌姫」と題された文章の中に、「歌手」と呼ばれる女性が登場し、彼女が「著名な作家」が書いたノンフィクション作品の本をぎゅっと抱きしめ、「この作家のことは知らなかったけれど、本人に会ったらとてもステキな人で、たちまち好きになってしまった。もうすぐニューヨークに来るので会うことになっている」と打ち明けるのだ。
 もちろん、ここで登場する「歌手」は藤を、「著名な作家」とは沢木のことを指している。実は大竹は、ニューヨークに来たばかりの藤をしばらく居候させていたというのだ。「噂の眞相」では、80年代初頭にニューヨークで藤と付き合いがあったという人物が、藤がいつも沢木の話をし、沢木が書いた幻の原稿をいつもうれしそうに持ち歩いては周囲にそれを見せていたこと、そしてニューヨークで沢木と同棲する計画があることを話していたとも報じている。


 この「噂の眞相」の記事では、沢木に直撃取材を敢行。ここで沢木は大竹のエッセイに登場するのが自分と藤であることを認め、「取材のプロセスで確かに彼女は僕に好意を抱いていたし、僕も好意を抱いていた。これは間違いありません」と返答。男女関係にあったことや、同棲の約束をしていたことについては否定しながらも、取材の終わりには「藤さんの家庭はうまくいっているの?」と直撃した記者に逆質問している。
 沢木との恋に破れた藤は、その後すぐに宇多田照實と出会い、ヒカルをもうけるわけだが、その経緯を知ると、沢木が藤の人生において与えた影響は大きいと言わざるを得ない。藤について書いた原稿を発表しない理由を記者に問われ、沢木は「それは……話せません」と歯切れ悪く答えているが、少なくとも藤は、愛する人が綴ったその原稿を宝物のように大事にしていたのだ。
 なぜ藤は、自らの手で人生の幕を閉じなければいけなかったのか? 今、封印してしまった原稿の続きを書けるのは、沢木をおいてほかにはいない。芸能界を一度は引退するほどまでに藤がかなえようとした恋に対して、今こそ沢木は決着をつけるべきではないのだろうか?
(文=エンジョウトオル)