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2013年7月20日土曜日

美砂子 光 その4

 光 美砂子目ざまし misako alarm clock


「人間は特殊なんだよ」
 と私は応えた。
「あらあら、どう特殊なのかしら? よろしかったら御説明いただけませんこと?」
 美砂子はおどけた調子で言ったけれども、こうした話を決して嫌いではないことを私は知っていた。美砂子座りで足を私の膝の上に載せているとき、ベッドで荒い息遣いと妙な唸り声を上げるあの楽しい運動をした後に裸で抱き合っているとき、あるいはホテルのレストランでアイスバケットに入ったフルボトルのワインを横に置いて目を合わせているとき、美砂子はいつでも会話を――長ったらしくて、しかも複雑な会話を楽しんだ。
 ……いや、そうではない。
 美砂子は、私に話をさせること、私に「御説明させること」を楽しんでいたのである。
 ちょうどあのポプラ並木の下での「御説明」から二人の付き合いが始まったように、美砂子は私に話をさせ、私の話を聞き、私の話をゆっくりと咀嚼し・飲み込み・消化していった。

 光のエネルギーがどうやって葉緑体によって貯蔵されるのか、貯蔵されたエネルギーがミトコンドリアの中でどのように安全に使われるのか、酸素の役割、電子の流れ、エイズウイルスのこと、エイズウイルスに感染した子供たちのこと、ドモルガンの法則から太陽と銀河系、核分裂によるエネルギーの地球内部における影響といった話まで、すべて、美砂子はゆっくりと咀嚼し・飲み込み・消化していった。
 美砂子は私に話をさせることによって、私という名の「土地」を、「観光地」を、旅していたのだろう。やがてその「観光」を終えて、観光客は故郷に帰ることを、能天気な私は気付かずにいた。
 能天気な私は、いつも、美砂子に求められるままに、思いつくことをそのまま、あれこれと喋っていたのである。

「人間は特殊さ」と私は言った。
人間は、他の動物たちが決してしない2つのことをする。一つは自殺だ。ネズミが集団行動で海や川に飛び込んで死ぬこともあるだろうけれども、それは厳密な意味では自殺ではない。人間だけが自殺をする。そしてもう一つは――」
「信仰を持つこと」
 と、そこで美砂子が言葉を挟んだ。しかし、私は首を横に振って応えた。
神様のことはどうでもいいし、僕には興味が無い。人間が