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2013年6月2日日曜日

歌舞伎



週刊新潮 2013年4月11日号

「吉右衛門は敵だ」と言い切った「勘三郎」と確執15年の発端
 彼ほど新しい歌舞伎座の檜舞台に立つ姿をファンや業界関係者から待望された人はいまい。稀代の国民的スターとまで評された、十八代目中村勘三郎である。常にスポットライトを浴び、人前で笑顔を絶やすことのなかった勘三郎。だが、そんな彼も、ある人物を話題にする時だけは、歌舞伎の隈取りの色が紅から藍に一変するかのように、顔つきが険しくなったという。そして日く、「あいつは俺の敵だ。吉右衛門の野郎は!」。
 吉右衛門とは。梨園の重鎮・二代目中村吉右衛門(68)のこと。重厚で陰影に富む演技は玄人筋から高く評価され、2年前には人間国宝にも認定された。テレビの時代劇『鬼平犯科帳』の鬼平役と言えば、馴染みのある方も多いだろう。
 勘三郎が頻繁に訪れた都内のバーでよく顔を合わせていた知人が語る。
「いつも陽気な勘三郎さんですが、こと吉右衛門さんの話になると、語気が荒くなる。“冷たい人だね。俺のことをいつまでも認めようとしない。『邪道に走り、芸能界でミーハーばかりやってる奴』、と蔑んでるんだ。でも俺は古典の型を極めたうえで、型破りの技にも挑戦してんだよ。あいつは頭が固すぎて、それが分からない”とぼやいていました」
爪楊枝作りの名人芸?
「確かに勘三郎は伝統を重んじ、その芸術性は継承しながら、エンターテインメント性を追求していた。大御所の反応には納得いかなかったのでしょう」(評論家)
 2人の反目はいつ、どういう理由で始まったのか。
「15年前、歌舞伎座での中村会の舞台『西郷と豚姫』で共演した際に確執が生まれたと聞いています。打合せで事績かく指示を出す吉右衛門さんに勘三郎さん(当時は勘九郎)が群易し、陰で“いちいちうるせえんだよ、あのオヤジは”とこぼしたところ、それが吉右衛門さんの耳に入った。以来、2人の関係はギクシャクしていたのです」
 と松竹関係者。爾来、2公演ほど共演の機会があっただけで、この10年ほどは断絶状態が続いていた。
「2005年の勘三郎襲名披露興行の時すら、吉右衛門さんは一回も出なかったほどです。5年前にはこんなことも。勘三郎さんが立川談志さんと銀座のバーで飲んでいた際、話題が吉右衛門さんに及んだ。すると披が“もう誰も使わなくなった爪楊枝の作り方の技術に磨きをかけても仕方ないじやん。それがいくら名人芸でもさ。今はナイフやフォーク、箸しか使わない時代でしょ”と、吉右衛門さんを揶揄したんです」(同)
 だが勘三郎は吉右衛門の実力は認めていたという。
「だから長男の勘太郎(現・勘九郎)を吉右衛門のところに稽古に通わせていました。昨年2月の新橋演舞場での勘九郎襲名興行では、息子のことを思った勘三郎が吉右衛門に頭を下げて出演を頼み、約10年ぶりの共演を果たしたのです」(歌舞伎に通暁している落語家の快楽亭ブラックさん)
 歴史的和睦を果したか。演劇記者の話。
「だけど、勘三郎の死後、吉右衛門は、彼の息子たちの舞台には立っていません。そう簡単に和解といかないのが人情なのです」


「染五郎」「寺島しのぶ」破局で不和の極致が「幸四郎」「菊五郎」
 いつまでも拭い去れない遺恨なのかもしれない。音羽屋のプリンスと播磨屋の箱入り娘が結婚すると、それを機に、「幸四郎」「菊五郎」の不和の極致である関係があらためて取り沙汰されている。発端は、「染五郎」と「寺島しのぶ」の破局スキャンダルだった……。

 尾上菊之助(35)と、中村吉右衛門の四女・堰子さん(30)は2月26日、東京・神田明神で結婚式を執り行った。中村勘三郎、市川團十郎を相次いで喪い、寂寥感の漂う歌舞伎界に久しぶりの明るいニュースをもたらしたのである。
 スポーツ紙の演劇担当記者が解説する。
「音羽屋の屋号をもつ尾上家は、歌舞伎界の名門中の名門。とりわけ“菊五郎”は、市川團十郎と並ぶ大名跡です。いずれ、菊之助は、父のあとを継ぎ、菊五郎を襲名する。これまで、江角マキコや知花くららなど芸能人と浮名を流してきましたけど、結婚した珊子さんは銀座の『和光』で働いていたOLです。次世代の歌舞伎界を担うプリンスとしての自覚が生まれ、結婚相手に梨園の出身者を選んだのでしょうね」
 大正から昭和にかけ、初代・吉右衛門と先代・菊五郎は、“菊吉”と並び称された花形役者。2人の結婚は、“平成の菊吉”夫婦の誕生というわけなのだ。
縁戚関係に
 しかし、せっかくのお祝いムードに水を差すかのように、歌舞伎関係者の間では現在、あの破局スキャンダルが蒸し返されている。
 かつて、尾上菊五郎の長女である寺島しのぶ(40)は、松本幸四郎の長男・市川染五郎(40)と交際し、97年には染五郎に隠し子が発覚したものの、2人は別れの危機を乗り越え、結婚秒読みと言われていた。ところが、03年、染五郎は突如、資産家令嬢との婚約を発表。失意のドン底に叩き落された寺島は、自殺を考えるほどのショックを受けたという。
 古典芸能に詳しいジャーナリストによれば、
「当然菊五郎は娘を弄ばれたと激怒し、松本家の高麗屋とは交流を断絶、幸四郎とは口も利かなくなった。以来、歌舞伎を運営する松竹としても、なるべく菊五郎と幸四郎が同じ舞台に立たないようにキャスティングには神経を使っていた」
 とはいえ、今度の結婚で、菊之助の岳父となった吉右衛門は、幸四郎の実弟。つまり、尾上家は、不倶戴天の敵である松本家と縁戚関係になったのだ。
「でも、実は、吉右衛門自身が兄の幸四郎とは仲が良くない。吉右衛門は幼い頃、先代の祖父のもとに養子に出され、兄に対し、ある種屈折した感情を持っている。さらに、芸に関しても、吉右衛門は伝統ある古典を継承すべしという保守派。かたや幸四郎は、テレビドラマやミュージカルにも積極的に出演するし、兄弟でそりが合わない。一大勢力の音羽屋と播磨屋がタッグを組み、今後、歌舞伎界での高麗屋の孤立が深まることになりそうです」(同)
 恩讐の彼方に、というわけにはいかないのである。